火山学に関する地球物理学や地質・岩石学、地球化学分野の計測・調査技術を活火山の現場で学んでもらうため、平成31年3月3日から8日までの5日間、鹿児島・宮崎県境に位置する霧島山(宮崎県えびの市)においてフィールド実習を行いました。北は北海道から南は鹿児島まで、本コンソーシアムに参画する全国10の大学から、地球物理学、地質・岩石学を専攻する大学院生14名と教員16名が参加しました。
実習中の宿泊地であるえびの高原荘に到着した後、初日は1つの講義を実施しました。
宮本毅助教(東北大学東北アジア研究センター地球化学研究分野)が、霧島山の全体像を紹介しました。南部九州における霧島火山の位置づけ、霧島火山の形成史、霧島火山を構成する火山の種類、最近1万年間の活動についての解説がありました。また、翌日の韓国岳巡検に関するガイダンスも行い、登山ルートや観察ポイントについての解説がありました。
天候状況を考慮し、まず巡検を行い、巡検後に2つの講義を実施しました。
霧島山の最高峰である韓国岳(標高1,700m)で巡検を行いました。2年前の実習で利用した山頂への最短ルートの登山道は硫黄山の活発化の影響で現在閉鎖されているため、韓国岳の南西に位置する大浪池を経由した登山ルートで山頂をめざしました。起伏の激しい本格的な登山となりましたが、受講生たちは韓国岳を登りながら霧島の多様な火山地形を観察し、全員無事に登頂しました。山頂からは2018年3月に噴火したばかりの新燃岳を見下ろし、噴火の痕跡などを観察しました。
巡検後、小園誠史准教授(東北大学大学院理学研究科地球物理学専攻)が2011年,2018年の霧島山新燃岳噴火に関する講義を行いました。2011年及び2018年に噴火した新燃岳で多様な噴火様式が出現し、それが多項目の観測によって捉えられたことを説明しました。本プログラムや実習の主要3分野でもある地球物理学、地質・岩石学、地球化学のデータを駆使して、最近の2回の噴火を定量的に比較して調べる研究手法について解説しました。
小園准教授の講義に引き続き、松島健准教授(九州大学理学研究院附属地震火山観測研究センター)から硫黄山の火山活動について詳しい紹介が行われました。2011年1月の新燃岳マグマ噴火以降の、硫黄山における火山性地震、火山性微動、傾斜変動などの活動の推移を時系列で説明し、硫黄山の噴火警戒レベルの詳細と、レベル設定にまつわる課題についての解説がありました。また、九州大学理学研究院附属地震火山観測研究センターによる精密水準測量や、硫黄山直下の圧力源についての観測・分析結果についても解説が行われました。
全体共通の講義や韓国岳巡検以外は、地球物理コース班と地質・岩石コース班と地球化学コース班に分かれて、それぞれ講義と実習が行われました。
3月5日に、山本圭吾助教(京都大学防災研究所附属火山活動研究センター)による、測地観測のひとつである水準測量の講義がありました。水準測量は明治時代に始まり、長年の技術により精度向上がはかられてきたこと、測定する上下変位の精度はGNSS観測などに比べて1桁もよいこと、などの解説がありました。その後、精度を高めるための測量機器の使用法や測量手順の説明を受けました。
講義の後、えびのエコミュージアムセンター付近で、山本助教と松島健准教授(九州大学理学研究院附属地震火山観測研究センター)、中尾茂教授(鹿児島大学理工学研究科)に、水準測量を実践してもらいました。その後、3名の受講生は、硫黄山から西にのびる道路で、機器を操作する測量係、標尺係を順番に交代しながら、約1.5kmにある6水準点の測量をしました。1回の失敗により水準点間のデータがすべて無駄になるため慎重な手順確認が必要ですが、時間とともに迅速に測量できるようになりました。
2日目は、松島准教授から水準データの解析方法の指導を受けました。過去の水準データとの比較から山体変形を求め、地下の火山性圧力源の位置と体積変化量を推定する方法を学びました。また、1日目にできなかった一部の測線の水準測量も行いました。
3日目は、九州大学のグループが2017年10月から実施している硫黄山での水準データを提供していただき、今回、受講生が測定した水準データとの比較から山体変形量を求めました。さらに、2018年4月の硫黄山の噴火を含む2年半の山体変形を及ぼした火山性圧力源の位置と体積増加量を明らかにしました。
3月5日は8:30から中川光弘教授(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)が「火山地質概論」の講義を実施し、噴火タイプと分類、噴火体制物の種類と判別、火山体とその構造、地層から噴火の様式や履歴などの情報を読み取ることで、過去の火山現象を復元できることを概説しました。その後、御池周辺でテフラ露頭を観察し、噴火のない時期の土壌と噴火堆積物とを識別することで噴火の履歴を推定し、堆積物から噴火の推移や様式を推定する方法を学びました。そして、柱状図を作成する課題に取り組みました。さらに露頭の奥へと進んだ受講生たちは、約7,300年前の鬼界カルデラの大噴火に伴って広く東北地方まで広がったオレンジ色の火山灰(アカホヤ)を観察し、広域テフラが地層年代の測定に重要な鍵層を特定する手法を学びました。
3月6日は8:30から伴雅雄教授(山形大学 理学部 地球環境学科)による「火山地形概論」の講義を受け、火山の地形を見ることで、噴出物の種類や火山形成史の大まかな推定が可能であることを学びました。小休止後に野外へ出発し、新湯周辺で火砕流堆積物の構造と分布の特徴などについて観察し、地質学的な調査方法を体験しました。
3月7日は、「火山岩岩石学概論」の講義と、顕微鏡を用いた実習を行いました。まず、8:30から東宮昭彦主任研究員(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)が「火山岩岩石学概論」の講義を担当し、噴出したマグマが固まってできた岩石(火山岩)から、どのような情報を読み取ることができるかを解説しました。講義に引き続き、実体顕微鏡と偏光顕微鏡による観察方法を学んだ受講生たちは、実際に顕微鏡で造岩鉱物や火山灰を観察しながら、マグマの冷却に関する情報や噴火様式などの情報を読み取る体験をしました。
3月5日に、えびのエコミュージアムセンター(えびの高原)において、森俊哉准教授(東京大学大学院理学系研究科 附属地殻化学実験施設)による「MultiGASを用いた火山ガス組成の測定」に関する講義が行われ、火山ガスの組成の特徴や採取・測定方法についての解説がありました。続いて、寺田曉彦講師(東京工業大学 火山流体研究センター)より地熱地域における観測の安全講習がありました。
次に、新燃岳火口から南西約3 kmに位置する新湯の火山ガス噴気地帯に移動し、谷口無我研究員(気象庁気象研究所)による火山ガスの直接採取測定の実演が行われ、検知管を用いたガス組成測定を受講生も手伝いました。また、MultiGASという装置を用いて、噴気ガスを測定しました(指導:森准教授)。この装置は、ガスセンサー群やポンプなどをコンパクトにまとめたもので、持ち歩きが可能であり、火口や噴気孔から流れてきた噴煙内で多成分の濃度を測定することができます。えびの高原に戻る途中、温泉水のpHと電気伝導度の測定も実施しました。
午後からは、エコミュージアムセンターの隣で、寺田講師、田中良研究員・橋本武教授(北海道大学地震火山研究観測センター)、森准教授の指導のもと、ドローンによる硫黄山の温泉水採取・火山ガス観測を開始しました。操縦講習を行った後、温泉水採取装置や小型のMultiGASを装着したドローンで、現在立ち入り規制区域となっている硫黄山の温泉水や噴気ガスまで到達し、採取や測定を行いました。ドローン観測は天候に左右されますが、この日は好天に恵まれ、受講生の操縦によって無事採取・測定に成功しました。
3月6日は終日雨のため、エコミュージアムセンターで主に講義や前日に取得した観測データの解析を行いました。最初に、谷口研究員による「熱水系のある火山における火山ガス」に関する講義が行われ、火山ガス観測に基づく火山活動評価や噴火推移予測の方法や実例についての解説がありました。続いて、濃度が既知のガスをMultiGASで計測する較正作業を野外で行った後、前日のデータを用いて、火山ガスに含まれるH2OやCO2、SO2、H2Sなどの化学成分を定量的に推定する解析を実施しました。
3月7日は、エコミュージアムセンターでまず寺田講師によるドローン観測の安全講習があり、観測において遵守すべき法令や安全対策などについての解説がありました。続いて、火山の活動度を把握するうえで重要な指標となる火山ガスの化学成分比を推定する解析を実施しました。新湯での地上観測および硫黄山でのドローン観測で取得したデータをもとに比を推定し、測定場所による値の違いなどを調べました。また、温泉水のpHと電気伝導度の測定データも整理しました。さらに、夕方には、解析を進めるうえで必要となった硫黄山の噴気ガスや温泉水起源の場所を調べるために再びドローン観測を実施しました。
最終日は、実習内容をまとめた発表会を行いました。受講生たちは、4つのグループに分かれてそれぞれ発表し、また、活発な質疑応答が変わされました。最後に教員たちによる講評を行い、発表内容に対する評価と今後に向けた助言などを受講生たちへ伝えました。
1.地質・岩石コース班:露頭から噴火史を探る
2.地球物理コース班:水準測量実習
3.地球化学コース班A班:霧島山における火山ガスの組成と表層水の性質
4.地球化学コース班B班:霧島火山における火山ガスの組成分析