火山学に関する地球物理学や地質・岩石学、地球化学分野の計測・調査技術を活火山の現場で学んでもらうため、令和6年9月1日から6日までの6日間、日本で最も活発な噴火活動を継続する火山の一つ、群馬県に位置する草津白根山においてフィールド実習を行いました。全国13の大学から、地球物理学、地質・岩石学、地球化学を専攻する大学院生23名と、教員11名が参加しました。
実習中に宿泊する草津温泉ホテルヴィレッジに到着後、西村太志教授(東北大学)による実習開始の挨拶の後、初日の講義を実施しました。
石﨑泰男教授(富山大学)が、地質学的・岩石学的観点から草津白根山の地形や形成史の紹介を行いました。階段ダイアグラムや年代測定など形成史を明らかにするための手法の説明を交えながら、火山体や火砕流台地の形成から溶岩流流出、本白根・白根・逢ノ峰火砕丘群形成までの推移について講義がありました。また、噴出物や露頭調査などに基づき、2018年噴火を含めた火砕丘群の水蒸気噴火履歴についても解説がありました。
2日目は火山活動に関する講義およびガイダンスの後、大型バスで草津白根山および浅間山周辺での巡検に出発しました。
寺田暁彦准教授(東京工業大学)が、草津白根山の火山活動の概要や地下構造、本白根2018年噴火について紹介しました。比抵抗構造や地震・傾斜などの地球物理的観測と火山ガスや湖水の地球化学的観測の結果に基づき、草津白根山の地下浅部および深部における熱水貯留域の存在、および白根火砕丘と本白根火砕丘の構造や噴火活動の違いに関する解説がありました。また、観測所としての研究や地域との連携に関する取り組みに関しても紹介がありました。
巡検では事前に配布された地質図や赤色立体図などを確認しながら、まず殺生河原周辺にて溶岩地形の観察を行ったほか、2018年本白根山噴火や気象庁観測点について石﨑教授および寺田准教授の解説を受けました。次に国道最高点にて白根および本白根火砕丘や浅間山などを遠望したほか、成田翔平助教(東京工業大学)による赤外線カメラの説明がありました。その後万座に移動し神田径准教授(東京工業大学)による観測点の説明を受けたほか、しぜん情報館で環境省職員の方による解説があり、地層はぎとり標本など館内展示物の見学を行いました。最後に嬬恋郷土資料館および鎌原観音堂にて浅間山天明噴火やそれによる土石流なだれについて学びました。この日は天気に恵まれ、国道最高点では山頂火口湖の1つである水釜が見られるなど充実した巡検となりました。
全体共通の講義や巡検以外は、地球物理、地質・岩石、地球化学の各コース班に分かれて、それぞれ講義と実習が行われました。
神田径准教授の指導の下、実習を行いました。9月3日は午後に雨の予報が出ていたため、まずホテルにて神田准教授から火山体構造を電磁気学的に調べる地磁気地電流法(MT法)の測定方法について説明を受けた後、草津白根東麓にある谷沢原地点および南東部にある静可山地点に観測に出かけました。それぞれ道路から10分ほど入った地点まで機材を背負子で担いで運び、数十メートル四方の平地に東西南北方向に4個の電極と東西南北および鉛直方向に3台の磁気コイルを埋設しました。その後各センサーの信号ケーブルをデータロガーに接続し、観測を開始しました。午後はホテルに戻り、MT法の原理や構造モデルの概要について講義を受けました。
9月4日はMT法の理論について、式の導出の演習を交えながら神田准教授から詳しく解説を受けました。その後、前日に設置した2点のデータ回収を行い、午後にはそのデータを用いた解析演習を行いました。
9月5日は2点のデータ回収と機器の撤収を行った後、火山体を構成する多様な火砕堆積物や熱水の比抵抗とそれに基づく地下構造解釈に関する講義を受けました。最後に2日間のデータを吟味し、鉛直方向のみに比抵抗が変化する1次元モデルを仮定し、得られたデータを説明できる地下浅部の比抵抗分布を推定してその解釈について議論しました。
伴雅雄教授(山形大学)、石﨑泰男教授、齋藤武士教授(信州大学)の指導の下、実習を行いました。9月3日は、まず浅間山の観測所の敷地内にある露頭を、解説を聞きながら観察しました。午後は、鬼押し出し園で、浅間山大噴火(1783年)によって形成された砕屑性溶岩を観察しました。さらに、吾妻火砕流堆積物や追分火砕流堆積物、鎌原岩屑なだれ堆積物の巨大な岩塊を観察し、噴火の推移や岩塊ができた経緯などを各自考察しました。
9月4日は草津白根山の調査を行いました。午前中に、青葉山にて最近5000年間で出来たテフラ層の説明を受け、柱状図(地質断面図)を作成するとともに、サンプルを採取しました。移動後、殺生溶岩の溶岩堤防、溶岩じわ、噴気帯を観察しました。 午後はホテルに戻り、採取してきたサンプルを洗浄しました。
9月5日は顕微鏡を用いて、採取してきたサンプルの観察・解析を行い、2つのグループに分かれ、議論を交わし最終日の発表準備を行いました。
野上健治教授(東京工業大学)、森俊哉准教授(東京大学)の指導の下、実習を行いました。9月3日は野上教授および森准教授のもと、温泉水測定の実習を行いました。午前中はまず温泉水や火山ガスの成分や測定に関する講義を受け、その後草津温泉街や西の河原で温泉水のサンプル採取や温度測定を実施しました。午後は東京工業大学草津白根山観測所に移動し、温泉サンプルの希釈など分析準備を行ったほか、翌日に使用する土壌フラックメーターをベースにしたMultiGAS装置を二酸化炭素と硫化水素の標準ガスを使用して校正しました。
9月4日はまず観測所で、イオンクロマトグラフィーによって標準資料や温泉水に含まれる陰イオンの自動分析を起動した後、殺生河原にむかいMultiGAS装置で噴気ガス組成の測定を行いました。その後、噴気地帯で測線を一つ決め、測線上の土壌ガスフラックスと二酸化炭素/硫化水素比の同時測定を行いました。殺生河原での調査の後、観測所に戻り温泉水中イオンの測定結果を確認しました。
9月5日は、宿泊所にて前日に測定したMultiGAS測定データの分析方法について説明がありました。MultiGAS測定ではセンサーごとに応答が異なることを考慮して分析を行いました。その後温泉水の採取場所による違いについての考察や、噴気ガスや土壌ガスの組成の違いに関する考察をするなど、翌日の発表に向けた準備を行いました。
最終日の9月6日は、実習内容をまとめた発表会を行いました。地質・岩石コース2班、地球物理コース2班、地球化学コース2班のグループに分かれて観測・データ解析の成果を口頭で発表しました。教員からだけでなく学生から多数質問が出るなど、活発な議論が行われました。最後に教員による講評を行い、今後に向けた助言が受講生たちに伝えられました。