火山学に関する地球物理学や地質・岩石学、地球化学分野の計測・調査技術を活火山の現場で学んでもらうため、9月3日に集合し、4日から8日までの5日間、群馬県に位置する草津白根山においてフィールド実習を行いました。本コンソーシアムに参画する全国の大学から、地球物理学や地質・岩石学、地球化学を専攻する大学院生20名と教員10名が参加しました。
1日目は草津白根山に関する講義と巡検を全体で行いました。この日は、前日まで草津温泉で開かれていた学生の自主活動による「火山学勉強会」に参加していた学生も参加し、総勢42名で実施しました。2日目以降は、地球物理コース(5名)、地質・岩石コース(7名)、地球化学コース(8名)に分かれて実習を行い、5日目に全体で発表会を行いました。
草津白根山の火山について、全体の特徴を講義しました。周辺に位置する赤城山、榛名山、浅間山などは中央火口を中心とした成層火山であるのに対し、草津白根山は多数の火口が形成されており、周辺の火山とは異なる地形的特徴を有すると説明されました。溶岩ドームや溶岩流の形成時期や位置、火砕流堆積物の調査により考えられている、草津白根山の地形発達史が紹介されました。また、南側はマグマ噴火を引き起こしてきた本白根火砕丘群、北側は現在活発な熱水活動を示す白根火砕丘群として分類し、近年は東側での水蒸気爆発活動が卓越していることを示しました。
近年、水蒸気爆発噴火を繰り返す草津白根山の火山活動を理解するために、草津白根火山観測所が実施している、地球物理学的観測や、温泉水や噴気などの化学分析に基づき、草津白根山の浅部火山熱水系の特徴を講義しました。火山では、非噴火時でも、噴気や熱異常、火口湖の活動を通して、エネルギーを放出していることを草津白根山の表面現象を例として紹介されました。これらの多様な活動は、地下の複雑性に起因すると想像しがちではあるものの、噴出堆積物などから構成される地下の媒質の透水係数や、熱水分布を考えることにより、比較的単純なシステムで説明できることを示しました。さらに、電磁気探査などから推測される,透水係数の小さい媒質が、地下の熱水の上昇を押さえ込む「キャップ」として働いているという、観測データから推定される地下構造により、火山体膨張現象や水蒸気爆発のメカニズムを理解できる可能性があることを説明しました。また、今後起こりうる水蒸気爆発を火口ごく近傍に展開した観測システムで捉え、現在のような定常的な活動との違いを観測から明らかにすることが、噴火予測に重要であると指摘しました。
午後から、草津白根山の湯釜周辺の巡検を行いました。レストハウスから登山道を上り、午前中の講義で説明のあった火山西側に噴出物が少ない特徴、火砕物の堆積の特徴がみられる火口壁の観察を行いました。残念ながら湯釜の方向には霧が出てきてしまいましたが、弓池火口など、白根山の複数の火口列を観察することができました。また、東京工業大学が設置している火山観測点を見学しました。
9月5日は8:30から、中川光弘教授(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)による火山地質学、伴雅雄教授(山形大学 理学部 地球環境学科)による火山地形、
石﨑泰男准教授(富山大学 大学院理工学研究部 環境・エネルギー学域)による草津白根山の地形の講義を受け、小休止後に11時から野外へ出発し、白根火砕丘群、殺生河原溶岩流の観察を行いました。白根火砕丘群については、各火砕丘の地形的特徴や噴出物の被覆関係などから、噴出順序の推定を行い、また殺生河原溶岩流については、溶岩堤防、溶岩じわなどの微地形の観察を行いました。
9月6日は雨天のため、8:30から最終日の発表へ向けての準備などを行い、雨が小降りになった10時ころから野外に向かいました。青葉溶岩の上にテフラが良好に保存されている露頭で観察を行いました。水蒸気噴火、マグマ噴火によるテフラがどれなのか?マグマ噴火でも噴出物には種類があり、また噴火の休止時期に堆積したローム層などもあり、見分けるには五感と頭をフル活用させなければなりません。指導した石崎准教授は「かなりしっかり見てくれたので、準備した甲斐があった」とおっしゃっていました。午後は、テフラ観察のまとめと実体顕微鏡の組み立てを行いました。
9月7日の実習では、火山灰試料の分析方法を学びました。草津グリーンハイツ大広間にて、大場司教授(秋田大学 大学院国際資源学研究科 資源地球科学専攻)による爆発的噴火と火山砕屑物の生成過程や特徴についての講義を8時30分より1時間半ほど受け、その後、大場教授、齋藤武士准教授(信州大学 大学院総合理工学研究科)、石崎准教授の指導の下、草津白根火山の火山灰の実体顕微鏡観察を行いました。形態、色などの特徴に注目し、本質物と非本質物の違いについて学びました。
午後は東京工業大学草津白根火山観測所へ移動し、草津白根の火山灰試料についてX線回折測定を行いました。この測定を通してX線回折測定の方法を学び、得られたX線回折データから火山灰に含まれる鉱物をどうのように同定するかについて学びました。
1日目(9月5日)には、神田径准教授(東京工業大学 火山流体研究センター)から、火山体内部構造の電磁気学的特性を調べる方法として、地磁気地電流法(MT法)の講義がありました。地下の比抵抗は、火山体を構成する多様な媒質により大きく変化し、火砕堆積物や熱水の空間分布を調べるのによい指標であるとの説明がありました。また、マクスウェル方程式などの基礎式をもとにしたMT法の原理の説明に加え、観測方法や観測機器の使用法の解説がありました。
講義の後、実際に、草津白根山の地下構造を調べるために、MT観測を行いました。まず、芳ヶ平自然歩道を10分ほど登った谷沢原の地点に、AMT観測装置を背負子で運び上げました。数十メートル四方の平地に、東西南北の方向に20mほどの間隔で4個の電極を、また、3本の磁気コイルを東西・南北および鉛直方向に向けて地面に埋設しました。各センサーの信号ケーブルをデータロガーに接続し、動作確認を行い測定を開始しました。また、午後には芳ヶ平自然歩道を30分ほど登った常布の滝が遠くに見える平地にMT観測装置を設置しました。
2日目(9月6日)にはAMT、3日目(9月7日)にはMTの観測装置を撤収しました。CFカードに記録された測定データをパソコンで解析し、鉛直方向のみに比抵抗が変化する1次元モデルを仮定して、得られたデータを説明できる地下の比抵抗分布を推定しました。
地球化学コース班では、温泉水測定と火山ガス測定の2テーマについての実習を行いました。天気の関係でスケジュールの変更がありましたが、以下のような講義及び実習を実施することができました。
東京工業大学草津白根火山観測所において、野上健治教授(東京工業大学理学院 火山流体研究センター)による「化学で解読する火山活動」、森俊哉准教授(東京大学大学院理学系研究科 附属地殻化学実験施設)による「火山ガス放出過程の観測」に関する講義が行われました。
火山活動の一部である温泉水の湧出過程を調べるために、草津温泉で採取した温泉水を地球化学的手法に基づいて分析しました(指導:野上教授)。湯畑や万代鉱などの複数の場所で温泉水を採取し水温を測定した後、草津白根火山観測所においてpH計による水素イオン濃度の測定とイオンクロマトグラフィーによる陰イオンの測定を実施しました。温泉水測定の前段階として、pH標準液によるpH計の校正とイオンクロマトグラフィーにおける検量線の作成を実施し、分析化学の性質を理解しました。各地の温泉水におけるpH値や塩化物イオン濃度、硫酸イオン濃度の測定値、及び草津白根火山湯釜火口の湖水の測定値との比較に基づき、温泉水の起源などを調べました。
MultiGASという装置を用いて、噴気ガスの化学組成を求めました(指導:森准教授)。この装置は、ガスセンサー群やポンプなどをコンパクトにまとめたもので、持ち歩きが可能であり、火口や噴気孔から流れてきた噴煙内で多成分の濃度を測定することができます。実習では、火山観測所においてMultiGAS装置のガスセンサーの較正作業を行い、草津白根火山の東、西山麓にそれぞれ位置する殺生河原と万座の噴気地帯において、測定を実施しました。噴気孔からの距離を変えることで変動する大気中の二酸化炭素と硫化水素ガスの濃度や、殺生河原における地表面からの流出ガス成分濃度を測定することができました。測定したデータに基づき、噴気や土壌の二酸化炭素と硫化水素ガスの組成比を推定し、場所や測定環境による違いを調べました。
最終日の9月8日には、地球物理コース2班、地質・岩石コース3班、地球化学コース2班のグループに分かれて、3日間の実習の成果を口頭発表しました。各班の発表に対して活発な質疑応答が交わされ、また最後に教員による講評が行われました。