火山学に関する地球物理学や地質・岩石学、地球化学分野の計測・調査技術を活火山の現場で学んでもらうため、令和4年3月6日から11日までの6日間、鹿児島市の桜島においてフィールド実習を行いました。全国11の大学から、地球物理学、地質・岩石学を専攻する大学院生16名と、教員14名が参加しました。
なお、実習前後2週間の参加者の検温報告、巡検や調査時のバス・車による移動の乗車率制限、一人一部屋での宿泊など、新型コロナウィルス感染対策を十分行ったうえで実施しました。
実習中の宿泊ホテルに到着して、西村太志教授(東北大学)による実習開始の挨拶とガイダンスを行った後、桜島に関する2つの講義を実施しました。
はじめに中川光弘教授(北海道大学)が、「桜島の地質岩石」について概論を講義しました。姶良カルデラの形成が生じた姶良火山の概要、その後カルデラ活動として誕生した桜島火山の構造や噴火史、プリニー式噴火や溶岩流出を伴った歴史時代の噴火、岩石学的研究によって明らかにされたマグマ供給系の特徴、最近の火山活動などについて解説がありました。
次に、井口正人教授(京都大学)が「桜島の火山活動~その多様性~」と題して、桜島における大正噴火(1914年)以降の多様な噴火活動の成因やメカニズムを観測に基づいて明らかにする研究について解説しました。1955年以降の南岳活動期や昭和火口噴火活動期、さらに最近のマグマ貫入イベントや南岳の活発な噴火活動が、地震・地殻変動などの観測によってどのように捉えられるかを紹介しました。
朝の各コース班での実習後、フェリーで鹿児島市街地から桜島に渡り、巡検を開始しました。桜島ビジターセンターを見学した後、桜島北岳の4合目に位置する湯之平展望台を訪れ、姶良カルデラや火砕流台地、大正噴火の溶岩流、北岳と南岳の山体構造などを眺望観察しました。
次に、桜島北東部において、安永噴火(1779-1982年)で生じた新島などの安永諸島を眺望し、島の形成過程などについて中川教授による解説がありました。残念ながら天候・視界不良で、大正噴火の溶岩流の広がりと北岳の関係については確認することができませんでしたが、姶良カルデラと桜島の関係については眼下に眺めることができました。
その後、島の東部に位置する黒神において、大正噴火により埋没した鳥居や、その周辺における降下軽石堆積物を観察しました。また、京都大学防災研究所の黒神観測室を見学し、設置している観測機器などについて中道治久准教授(京都大学)による解説がありました。
大正噴火の溶岩流により、孤島であった桜島と大隅半島がつながった部分を通り、島の南部に位置する有村展望台で大正噴火の溶岩流や最近の噴火による噴出物を観察しました。最後に、東桜島小学校のご厚意により、小学校の敷地内にある「住民ハ理論ニ信頼セス」で有名な桜島爆発記念碑を見学させてもらいました。他地域での実習とは異なる、登山のないバス移動のみの巡検でしたが、桜島を一周する充実した内容の巡検となりました。
全体共通の講義や巡検以外は、地球物理、地質・岩石、地球化学の各コース班に分かれて、それぞれ講義と実習が行われました。
3月7日に、中道准教授による、地震観測概論の講義がありました。地震計の原理と種類、火山活動に伴い発生する地震の特徴とその観測の歴史や現在の観測網について解説しました。また、地震観測データの解析に基づき、地震の発生源やメカニズムなどを推定し、それが火山活動の理解や把握につながることを学びました。
3月8日は、まず山田大志助教(京都大学)による「火山での地震観測の基礎」に関する講義がありました。火山観測の代表的な手法である地震観測の原理、背景、今回の実習で実施する観測機器やその設置方法などについて解説しました。講義後、南岳山頂から東に約4.3kmに位置する京都大学黒神観測点に移動し、西村教授、中道准教授、山田助教の指導のもと、地震計の設置を行いました。今回は、複数の地震計を面的に設置し、地震波の到来方向や速度を調べることで、地震の発生源の位置を推測する「地震計アレー観測」を実施しました。受講生は2名ずつの2班に分かれ、各班でそれぞれ4点の地震計を設置し、無事に観測を開始することができました。
3月9日は、まず西村教授による「火山性地震の地震計アレー解析」に関する講義がありました。地球物理学観測データの解析でよく利用される逆問題(インバージョン手法)による解の推定方法と誤差について解説し、それを地震計アレー記録の解析で実践する方法について学びました。また、解析に使用するプログラムを各自作成する実習も実施しました。夕方に、昨日設置した地震観測点の撤収作業を行い、データを回収することができました。
3月10日は、昨日までに観測した地震のデータを用いて、アレー解析を実施しました。解析では実習の1ヶ月前から設置していた観測点のデータも使用し、桜島で発生した噴火に伴う地震のデータも解析しました。解析によって地震波の到来方向や速度を推定し、地震発生源の位置などについて議論しました。
3月7日は、中川教授が「火山地質学の基礎」と題して、噴火タイプと分類、噴火堆積物の種類と判別、火山体とその構造、地層から噴火の様式や履歴などの情報を読み取ることで、過去の火山現象を復元できることを講義しました。次に、伴 雅雄教授(山形大学)が「火山地形概説」と題して、火山活動によって、火口、カルデラ、溶岩流、溶岩ドーム、火砕丘、火砕流・土石流堆積物など、様々な特徴的地形が生まれることを解説し、その地形を地形図などから判読する方法について講義しました。
3月8、9日は、中川教授、伴教授、井村 匠助教(山形大学)の指導のもと、野外実習が行われました。8日は、桜島の東側、黒神の露頭において、大正噴火でもたらされた軽石層と、1955年以降の噴火で堆積した火山灰層を観察し、噴火の様式や推移を考察しました。スコップやねじり鎌を用いて露頭を作成した後、堆積構造の特徴を観察することで柱状図を作成し、地層をユニットの区分を行いました。また、翌日の顕微鏡観察のために、一部のユニットから採取した試料をふるいで粒度ごとに分けて超音波洗浄する試料準備作業を行いました。 9日は、まず⾚⾊⽴体地図、陰影起伏図、地質図をもとに、桜島南東部の地形分類を試みました。その後、実際に現地で地形及び堆積物の調査を行いました。昭和溶岩、大正溶岩などの各噴火でもたらされた溶岩流や、土石流堆積物について、堆積構造や構成物質などを観察し、地形分類の結果との比較・検証を行いました。
3月10日は、まず、金子克哉教授(神戸大学)による「火山岩岩石学概論」の講義がありました。その後、金子教授と井村助教の指導のもと、顕微鏡による噴出物観察の実習を行いました。3月8日の作業で準備した黒神の露頭における堆積物試料を実体顕微鏡で観察し、構成粒子の種類ごとの割合を調べました。その結果に基づき、噴火様式の対応関係などについて、議論しました。
3月7日は、野上健治教授(東京工業大学)が、地球化学的手法による火山観測研究の概要について解説しました。火山ガスの繰り返し観測によりその組成変化を捉えることが、火山活動のモニタリングにおいて重要であることを学びました。また、今回の実習で実施する火山灰付着成分分析の原理と手法について説明しました。
3月8日は、まず森 俊哉准教授(東京大学)が「火山ガス放出率観測」の講義を行いました。火山ガスの主成分の一つである二酸化硫黄が紫外波長領域を吸収する性質に基づき、紫外分光計を用いて二酸化硫黄を計測する原理や、今回の実習で実施する、噴煙の鉛直断面を横切るように火山ガスを計測する「トラバース法」について説明がありました。その後、桜島島内で二酸化硫黄放出率の測定を実施しました。分光計を真上に向けた状態で車の外側に設置し、噴煙の下を通過することで噴煙断面内の二酸化硫黄濃度分布を測定しました。また、噴煙の流行方向の風上と風下の二箇所で同時に定点観測を行うことで、放出率の正確な推定に必要な噴煙速度の計測も行いました。
3月9日は、火山灰付着成分分析の実習を行いました。懸濁物質を含んだ溶液を通過する光の透過率から溶液中の濁り具合を測定し、溶液に溶かした成分の濃度を推定する「比濁法」という手法を用いて、⽕⼭灰⽔溶性成分のうち塩化物イオンと硫化物イオンの濃度測定を行いました。2016-2020年に発生した噴火直後に採取された火山灰と、3月7日の全体巡検中に受講生が採取した火山灰を測定試料として用い、得られた測定結果をもとに噴火様式とイオン濃度の関係などを調べました。
3月10日は、3月8日の観測で取得したデータに基づき、二酸化硫黄放出率を推定する解析を実施しました。トラバース法によって測定された噴煙断面内の二酸化硫黄量と、噴煙風上と風下の定点観測によって測定された噴煙速度に基づき二酸化硫黄放出率を推定し、過去の放出率データとの比較などを行いました。
最終日の3月11日は、実習内容をまとめた発表会を行いました。受講生たちは、7つのグループ(各2~3人)に分かれてそれぞれ発表し、また、活発な質疑応答が交わされました。最後に教員たちによる講評を行い、発表内容に対する評価と今後に向けた助言などを受講生たちへ伝えました。