火山学に関する地球物理学や地質・岩石学、地球化学分野の計測・調査技術を活火山の現場で学んでもらうため、令和元年9月8日から13日までの6日間、北海道に位置する樽前山(北海道苫小牧市・千歳市)においてフィールド実習を行いました。北は北海道から南は鹿児島まで、本コンソーシアムに参画する全国14の大学から、地球物理学、地質・岩石学、地球化学を専攻する大学院生24名と教員11名が参加しました。
今回の実習を実施するにあたり、樽前山火山防災協議会に事前に実習内容を説明するとともに、一般登山客には立入禁止の区域内に入る許可、撮影許可、噴出物採取の許可を得ています。また、噴気を間近に感じる区域があることに十分に留意し、ガスマスクを着用するなど安全に配慮して実施しました。
初日は、2つの講義を実施しました。
中川光弘教授(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)が、樽前山の全体像を主に地質学的な観点から紹介しました。北海道の更新世火山活動の特徴、支笏-洞爺火山地域、支笏火山の活動史、樽前火山の噴火履歴と噴火様式の特徴、樽前火山のマグマ系の構造と進化などについて解説があり、翌日以降の巡見や実習を進める上での基礎的な理解を深めました。
橋本武志教授(北海道大学 大学院理学研究院 附属地震火山研究観測センター)による講義は、樽前山の近年の火山活動の状況を理解し、実習で訪れる場所で想定される危険について受講生が理解を深めることを目的として実施されました。また、多種目(地盤変動、地磁気、火山ガス組成、など)の観測データを概観することで、非噴火期に地下でどのようなことが起こっているのかを考える手がかりについて解説しました。
巡検登山に先立ち、中川教授によるガイダンスが実施されました。火砕流台地(フップシ)、1874年噴出物を見ることができる露頭、Ta-a火砕流の表面地形、山頂火口、A火口(噴気及び爆裂火口の観察)、溶岩採取、山頂火口南縁(覚生川源頭部)での露頭観察、二十稜線地形ができた過程について検討、などの巡検地点ごとに目的と意義を理解しました。
樽前火山は支笏火山の後カルデラ火山の1つです。9000年前に活動を開始し、明瞭な休止期を挟んで3回の活動期があり、現在は3回目の歴史時代活動期にあたります。
受講生たちは、登山しながら、火山の地形や地質の違いなどを観察しました。山頂火口から1909年溶岩ドームにも近づき、受講生たちは火山の息吹やスケールの大きさなどを体感していたようすでした。
全体共通の講義や樽前山巡検以外は、地球物理コース班と地質・岩石コース班と地球化学コース班に分かれて、それぞれ講義と実習が行われました。
9月9日に、橋本教授による、火山の地磁気観測についての講義がありました。地球の磁場(地磁気)の特徴,磁場の時間変化から地下の温度圧力変化を推定できる磁気探査の原理や、今回の観測で使用するオーバーハウザー磁力計について、などの解説がありました。その後、観測手順の説明を受け、測定時に金属類(磁性体)を身につけないことなど、地磁気観測の所作を学びました。
講義の後、昨日に続いて樽前山に再び登頂し、橋本教授と青山裕准教授(北海道大学理学研究院附属地震火山研究観測センター)の指導のもと、地磁気観測を開始しました。受講生は4名ずつの2班に分かれ、それぞれ樽前山の溶岩ドームの北側と南側を分担して観測しました。測定者は磁気センサが取り付けられた約2 mのポールを数分間垂直に保ち続け、各観測ポイントでの磁場を測定します。時折強風が吹く中での作業となりましたが,各班の受講生の間で作業を分担しながら、計約20点での測定を無事完了しました。下山途中に、北海道大学の火山観測点を見学させてもらいました。ホテルに戻った後、今日測定したデータをロガー(データ収録装置)から出力し、明日以降の解析に備えました。
9月10日は、溶岩ドームの山頂にある観測点で測定を実施しました。霧で視界が悪いなか無事に山頂へ到達し、計画通りに全観測点でのデータ取得に成功しました。宿に戻った後、地表での地磁気観測データから地下の地磁気変動源を推定する原理とその解析手法について、橋本教授による講義と解説がありました。
9月11、12日は、2班に分かれて、取得した地磁気観測データから地下の地磁気変動源の場所を推定する解析を実施しました。
9月10日は8:30から中川教授が「火山地質概論」の講義を実施し、火山地質学・岩石学の基礎として、噴火タイプと分類、噴火堆積物の種類と判別、火山体とその構造、地層から噴火の様式や履歴などの情報を読み取ることで、過去の火山現象を復元できることを概説しました。その後、大から沢で1739年の大規模噴火(VEI5)による火砕物の露頭を観察しました。中川教授の一般的な解説の後、受講生たちで堆積物を層に分類し、層厚や軽石の大きさなどを測り、露頭の柱状図を作成しました。
2日目の9月11日は樽前山の北東山麓を調査しました。1739年の大規模火砕流による噴出物の上に見られる、1874年の中規模マグマ噴火の火砕流の形状や軽石の特徴を観察しました。また、地層内で火砕流堆積物を見分けるポイントや、地形効果によると考えられる火砕流堆積物の溶結現象について勉強しました。
3日目は室内において、吉村俊平助教(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)の指導のもと、前二日で採取してきた火砕物を顕微鏡観察を行い、含有鉱物の生成条件をもとにマグマ溜まりの深度の推定を行いました。また、軽石の質量と体積から密度を測定し、軽石が形成されるマグマ破砕面の深度推定も行いました。
9月10日の午前中は、篠原宏志首席研究員(産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門 研究グループ)により、火山ガスの起源や多成分平衡計算、Multi-GAS測定法などに関する講義が行われました。続いて、森田雅明研究員(産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門 研究グループ)より火山ガス放出率の測定についての講義がありました。
9月10日の午後は、翌日に実習で使用する機器を手に取りながら、SO2及びH2Sの校正・応答特性の測定実習とデータ解析を実施しました。
9月11日は樽前火山に登り、小型紫外分光計やMulti-GASの機材を用いて、A火口付近で火山ガスを採取しました。火山ガス放出率の推定計算や、Multi-GASの組成代表値推定、センサー応答時間差に起因する誤差の推定、噴気組成の均質性・不均質性の評価を実施するためのデータを収集しました。
9月12日は前日に取得した観測データの解析を行いました。前日のデータを用いて、火山ガスに含まれるH2OやCO2、SO2、H2Sなどの化学成分を定量的に推定する解析を実施しました。
最終日は、実習内容をまとめた発表会を行いました。受講生たちは、6つのグループ(各4人)に分かれてそれぞれ発表し、また、活発な質疑応答が交わされました。最後に教員たちによる講評を行い、発表内容に対する評価と今後に向けた助言などを受講生たちへ伝えました。