宮城県、山形県の県境に位置する蔵王において、火山学に関する地球物理学、地質・岩石学の計測・調査技術を活火山の現場で学んでもらうため、平成30年10月6日から8日までの3日間、蔵王フィールド実習を行いました。実習には本コンソーシアムに参画する全国7の大学から地球物理学や地質・岩石学を専攻する大学院生(修士課程)11名と教員・スタッフ4名が参加しました。
1日目午前は蔵王巡検を全体で行い、午後以降・2日目は地球物理コース(7名)、地質・岩石コース(4名)に分かれて実習を実施し、3日目に全体で発表会を行いました。
蔵王山頂レストハウスに10月6日10時集合後、伴雅雄教授(山形大学 理学部)による指導の下、巡検を行いました。好天に恵まれたなか、最新期初期に形成された馬蹄形の馬の背カルデラ、その内側の中央火口丘である五色岳、爆裂火口によってできた火口湖の御釜などを遠望観察しながら、蔵王の火山活動史についての解説がありました。さらに、御釜周辺で最新の噴火である1895年水蒸気噴火による堆積物の観察を行った後、刈田岳山頂で約3万年前のマグマ水蒸気噴火噴出物を観察しました。
地球物理コース班は、火山における地震観測方法のうち、地震計アレイ観測および関連する講義・解析の実習を行いました。
10月6日の午後から、御釜火口から南東に約1.5 km離れた地点において、地震計アレイ観測を行いました。地震計アレイ観測とは、ある程度の広さの場所の中に複数の地震計を設置し、地震波の到来方向や速度を調べることで、地震の発生源の位置を推測する方法です。西村太志教授(東北大学 大学院理学研究科 地球物理学専攻)の指導の下、地震計やデータロガーの使用方法について説明を受けた後、地震計を設置しました。
10月7日午前は西村教授が今回の実習で使用する地震計の原理、および地震計によって記録される地震動の種類や特徴についての講義を行いました。さらに、地震計アレイ観測のデータに基づき地震波の見かけ速度と伝搬方向を推定する原理や解析手法について解説しました。受講生は各自例題を解くことによって、アレイ解析の手法を習得しました。
設置していた観測機器にトラブルがあり、蔵王でのデータを収集することができなかったため、10月7日午後は急遽昨年度のイタリア・ストロンボリ火山での海外フィールド実習で観測したアレイデータを使って、解析実習を行いました。講義で学んだ解析手法をデータに適用することで、ストロンボリ火山において噴火に伴い高頻度で発生する地震について、地震波の見かけ速度と伝搬方向を推定し、地震発生源の位置を求めるなどの解析を行いました。
地質・岩石コース班は、火山地質学に関する講義、蔵王山頂近傍および山麓での噴出物露頭観察や噴出物の顕微鏡観察についての実習を行いました。
10月6日午後から、伴教授の指導の下、御釜の北西に位置する熊野岳西部の露頭で火砕岩を観察しました。火山弾やスコリアを含む、アグロメレートやアグルチネートからなる各層において、構成物の種類や割合の違いを調べることで、噴火推移の推定を行いました。その後、御釜から約1.5 km離れた御田ノ神と大黒天の露頭においてテフラ層を観察し、柱状図を作成しました。
10月7日午前は、伴教授による火山地質学関係の講義を行った後、御釜から約4 km離れた澄川で、過去約3000年間のテフラを観察し、その特徴を調べて柱状図を作成し、噴火推移を推測しました。さらに、前日に観察した御田ノ神と大黒天のテフラと鍵層の対比を行い、層序関係を調べました。
10月7日午後は、澄川で採取したマグマ噴火、水蒸気噴火による火山灰を顕微鏡で観察しました.色の異なる石質岩片や結晶など、構成物の種類と割合を層序毎ごとに調べることで、噴火の推移過程を推定しました。
最終日の10月8日は、実習内容をまとめた発表会を行いました。地球物理学コース2班と地質・岩石コース2班のグループに分かれて実習の成果を口頭発表し、各班の発表に対して活発な質疑応答が交わされました。最後に教員たちによる講評が行われました。