火山研究人材育成コンソーシアム構築事業

■タイトル: インタビュー&レポートVol.23:有珠でフィールド実習を実施しました(令和5年9月3日~8日) ■本文:
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インタビュー&レポート

有珠でフィールド実習を実施しました
(令和5年9月3日~8日)


インタビュー&レポート

1.概要

火山学に関する地球物理学や地質・岩石学、地球化学分野の計測・調査技術を活火山の現場で学んでもらうため、令和5年9月3日から8日までの6日間、北海道の有珠山(洞爺湖町、壮瞥町)においてフィールド実習を行いました。全国15の大学から、地球物理学、地質・岩石学、地球化学を専攻する大学院生24名と教員10名が参加しました。

2.全班共通活動

● 9月3日午後 新千歳空港に集合した受講生24名は洞爺湖のホテルに16時頃到着しました。まず西村太志教授(東北大学)による実習開始の挨拶・ガイダンスを行いました。その後、「有珠山の形成史とマグマ系」に関する講義を行いました。約1.9万年前から開始した有珠山の活動の概要、山体崩壊の発生時期、17世紀末から19世紀にかけての爆発的噴⽕と溶岩ドーム形成が繰り返された歴史時代噴火の特徴、地質学・岩石学的研究によって明らかとなったマグマ供給系などについて学びました。

● 9月4日 有珠山の最近の活動に関する講義を行いました。地球物理学的観測に基づくの研究成果をもとに有珠山で発生した1910年、1943-45年、1977-82年、2000年のマグマ噴火について、噴⽕前、噴火継続中、噴火後の地震活動や地熱・ガス活動に加え、表面現象や地形との関連性を学びました。


講義の後、有珠山南外輪にある火口原展望台に車で移動しました。歴史時代に形成された大有珠(1853年)、有珠新山(1977-78年)、小有珠(1822年)の溶岩ドーム、南麓の岩屑雪崩などの地形を遠望しながら、有珠山の噴火活動履歴や解説がありました。有珠山全景を見ながら弁当を食べた後、小有珠西麓まで車で移動したのち、火口原の中の巡検を始めました。銀沼火口の形成過程や、有珠火山活動の現況に関する説明がありました。その後、小有珠の山頂に登り、有珠山全体の地形や洞爺湖などを観察しました。小有珠西麓まで下山後、地磁気定常観測点や、北屏風山の有珠外輪山溶岩、1977年噴火の火山灰噴出物が観測できる露頭を見学しました。


3.各班の実習(9月5日、6日、7日)

全体共通の講義や巡検以外は、地球物理、地質・岩石、地球化学の各班に分かれました。受講生は、専攻している分野ではない班に配属され、講義の受講と実習を行いました。

● 地球物理コース班

9月5日午前に、橋本教授による、地球の磁場(地磁気)の基礎知識,磁場の時間変化から地下の温度圧力変化を推定する磁気探査手法の原理の講義がありました。また、実習で使用するオーバーハウザー磁力計の原理や使い方、測定時に金属類(磁性体)を身につけないことなどの観測時の注意点など、地磁気観測の所作を学びました。 その後、有珠山西麓から火口原に入り、地磁気観測を開始しました。受講生は4名ずつ、2班に分かれ、橋本教授の他、青山教授、田中良助教(北海道大学)の指導の下、有珠山の北側と南側を分担して観測しました。測定者は磁気センサが取り付けられた約2 mのポールを数分間垂直に保ち、有珠山火口周辺の各観測ポイントでの磁場を測定しました。時折やや強い雨が降りましたが、予定した場所での測定を終えることができました。

9月6日は、引き続き地磁気観測を実施し約30点の全ての観測点での測定を計画通りに完了しました。帰宿後、地表での地磁気観測データから地下の地磁気変動源を推定する原理とその解析手法について、橋本教授による講義がありました。

9月7日は、2班に分かれて取得した地磁気観測データをもとに、有珠山の浅部地下にある地磁気変動源の場所を推定しました。


● 地質・岩石コース班

9月5日の午前中には、伴雅雄教授(山形大学)が「火山地質概論」と題して、噴火タイプと分類、噴火堆積物の種類と判別、火山体とその構造に関する講義を行い、地層から噴火の様式や履歴などの情報から過去の火山現象を復元する方法を解説し、また「火山地形概論」と題して、様々な火山地形の特徴及び、火山地形から火山形成史を推定する方法を講義しました。続いて、本日の野外調査について説明がありました。

その後、9月6日にかけて、伴教授、栗谷豪教授(北海道大学)の指導のもと、野外実習が行われました。5日は、有珠山火口縁付近において、スコップを用いて約2m四方の地層の面出し作業を行った後に、現れた1822年及び1977-78年の噴火による多数枚のテフラ堆積物について、ユニット区分を行う方法、各テフラの特徴を捉え柱状図を作成する方法、さらにその特徴から噴火の推移を復元する方法を学びました。翌6日は、まず本日の野外調査の説明が行われた後に、山頂火口の中にある1978年の噴火で形成された銀沼火口の火口壁に見られる堆積物について実習を行いました。この日から吉村俊平助教(北海道大学)も指導に加わりました。火口壁には全面にわたって噴出物が厚く堆積しています。このうちの南東~南壁に厚く堆積している噴出物の層序区分を行う実習を行いました。この際に、岩相変化やグループの境界の特徴の重要性を学びました。また、水平方向に連続しない層もあり、これは銀沼火口が複数の火口が連結したものであることに起因することも認識しました。さらに、代表的な箇所において柱状図の作成を行い、昨日と同様に噴火推移の推定までの実習を行いました。

9月8日は、吉村助教の指導のもと、前日に採取してきた降下軽石を実体顕微鏡で観察し、含まれる鉱物の種類を同定することで、マグマ溜まりの温度や圧力を推定しました。また、軽石の質量と体積から密度を測定し、軽石が形成されるマグマ破砕面の深度推定を行いました。


● 地球化学コース班

9月5日は、森俊哉准教授(東京大学)が、火山ガスの土壌拡散放出測定により、火山の地下構造や、マグマ・熱水系の活動の変化を調べる研究手法について、講義しました。、続いて、角野浩史教授(東京大学)が揮発性物質の組成や同位体について講義し、火山ガスの起源や同位体比の活動評価への利用を解説しました。 その後、昭和新山に移動し実習を開始しました。森田雅明助教(東京大学)から測定機器の使い方を教わった後、土壌から放出されるCO2のフラックスと、熱電対温度計を用いた地下25cm深の温度の測定を行いました。森俊哉准教授から、土壌ガス中のCO2濃度とCO2の炭素同位体分析をするための土壌ガスの採取法を教わりました。午後は雨のために測定・採取は中止し、室内で基準ガスを用いた較正法や分析手順を学びました。

天候の回復した9月6日の午前に昭和新山の斜面2か所でCO2フラックス分布の測定と土壌ガス採取を行い、午後に2日間で採取した土壌ガスのCO2濃度と同位体比の分析を行いました。

9月7日はCO2フラックスデータの解析をするとともに昭和新山の土壌ガス放出について検討しました。同位体分析に使用した同位体比赤外分光装置は、発展コースの受講生の沼田翔伍さん(東京大学)が立ち上げてくれました。


4.発表会・講評

最終日の9月8日は、実習内容をまとめた発表会を行いました。受講生たちは4名ずつのグループごとに、昨夜遅くまでまとめた実習内容を発表しました。受講生や講師の先生方からの多くの質問に対して、発表者は、実習中に勉強したことや考え方をもとに回答しました。最後に講師の先生方から講評を行い、発表内容に対する評価と今後に向けた助言などを受講生たちへ伝えました。