火山学に関する地球物理学や地質・岩石学、地球化学分野の計測・調査技術を活火山の現場で学んでもらうため、令和5年3月12日から17日までの6日間、鹿児島・宮崎県境に位置する霧島山においてフィールド実習を行いました。本コンソーシアムに参画する全国12の大学から、地球物理学、地質・岩石学、地球化学を専攻する大学院生22名と特別聴講生1名、教員16名が参加しました。2日目の3月13日に予定していた韓国岳巡検等を1日繰り下げましたが、全体的に天候に恵まれ、順調に実習を行うことができました。
3月12日に実習中の宿泊地であるホテルピコラナイえびの高原に夕方到着したのち、えびのエコミュージアムセンターに移動し、西村太志教授(東北大学)による実習開始の挨拶とガイダンスを行いました。そのあと、霧島山の全体像を理解するため、宮本毅助教(東北大学)が、南部九州における霧島火山の位置づけ、霧島火山の形成史、霧島火山を構成する火山の種類、最近1万年間の活動について解説しました。3月14日には、松島健教授(九州大学)が、最近の霧島山の火山活動に関して講義を行い、2011年及び2018年に新燃岳で発現した多様な噴火活動や硫黄山の2018年噴火について、多項目観測のデータ結果をもとに解説しました。
霧島山の最高峰である韓国岳(標高1,700m)と、活発な噴気活動を続けている硫黄山で巡検を行いました。えびの高原からの登山道沿いの露頭や、大浪池火口、加久藤カルデラ、韓国岳の山体崩壊地形などを観察しながら韓国岳の山頂をめざしました。全員無事に登頂し、2018年3月に噴火した新燃岳の火口の噴気活動や溶岩のほか、御鉢や大浪池火口などを観察しました。その後下山し、規制区域への入域申請を事前に行った上で、硫黄山の噴気地域を観察しました。天気に恵まれ、予定通りの充実した巡検を行うことができました。
全体共通の講義や巡検以外は、地球物理、地質・岩石、地球化学の各コース班に分かれて、それぞれ講義と実習が行われました。
3月13日に、山本圭吾助教(京都大学)による、火山性圧力源の時空間分布を把握するために行われている測地観測の講義がありました。とくに、実習で用いる水準測量について詳しい解説がありました。水準儀と標尺とを用いて2地点間の高低差を高精度で求める水準測量の原理と方法、本実習で行う1等水準測量に求められる精度や精度を高めるための作業手順についての説明を受けました。また、松島教授からは、圧力源解析に用いる茂木モデルの詳しい解説がありました。その後、ホテルの外で、山本助教と松島教授の指導のもと、水準儀と標尺の使い方を習得し、また測器の検定方法についても学びました。
3月15日は、硫黄山から西にのびる道路で3-4名の2班に分かれて水準測量を行いました。水準儀を操作する測量の係、標尺の係を順番に交代しながら、約1.5kmにわたる5つの水準区間の測量をしました。1回の失敗により水準点間のデータがすべて無駄になるため慎重な手順確認が必要ですが、時間とともに迅速に測量できるようになり、無事に1等水準の精度を満たす測量を行うことができました。
3月16日は、松島教授から水準測量データの解析方法の指導を受けました。地盤変動量から地下の火山性圧力源の位置と体積変化量を推定する方法を学びました。九州大学のグループが2017年10月から実施している硫黄山での水準測量データの提供を受け、今回の実習で測定した水準測量データとの比較から地盤変動量を求め、2018年4月の硫黄山の噴火を含む4年半の硫黄山直下の火山性圧力源の位置と体積増加量を明らかにしました。そのほか、中尾茂教授(鹿児島大学)が光波測距儀やGNSS測量による地盤変動観測について、機器を用いて解説を行いました。
3月13日は、まず伴雅雄教授(山形大学)が「火山地質概論」の講義を実施し、噴火タイプと分類、噴火堆積物の種類と判別、地層から噴火の様式や履歴などの情報を読み取ることにより過去の火山現象を復元できることを学びました。引き続き「火山地形概論」の講義を受け、火山の地形観察により噴出物の種類や火山形成史の大まかな推定が可能であることを学びました。そして、韓国岳~不動池付近の赤色立体図を基にした地形分類図の作成に取り組みました。午後は宮本助教と伴教授の指導の下で御鉢の東麓にある御池周辺でテフラ露頭を観察し、噴火様式の違いを反映した岩相の違い、本質物と類・異質岩片の識別、噴火のない時期を示す土壌の識別などによって、堆積物から噴火の推移や様式を推定する方法を学び、柱状図を作成する課題に取り組みました。また代表的な噴出物の顕微鏡観察用試料を採取し、ホテルにて試料の前処理を行いました。
3月15日は、午前中に新燃岳の南西部に位置する新湯周辺で火砕流堆積物の構造と分布の特徴などを観察しました。多数のフローユニットからなる火砕流および火砕サージの堆積物について、堆積構造や本質物と類・異質岩片の識別などに着目しなから、噴火履歴を構築する課題に取り組みました。午後は13日の観察地点から北西方向の連続露頭において、約7,300年前の鬼界カルデラの大噴火によってもたらされたオレンジ色のテフラ(アカホヤ)、霧島の噴火によるテフラや溶岩流など、多様な堆積物を観察し、ルートマップの作成に取り組みました。長谷川健准教授(茨城大学)と井村匠助教(山形大学)も指導に加わり、露頭観察や地質調査に関して多数の助言を受けました。
3月16日は、金子克哉教授(神戸大学)による「火山岩岩石学概論」の講義を受け、前日までに調査した露頭などで採取された噴出物の観察から、どのような情報を読み取ることができるかを学びました。講義に引き続き、金子教授と宮本助教の指導の下で実体顕微鏡による噴出物の観察方法を学びました。実際に顕微鏡で火山灰を観察しながら、含まれる構成物の種類や特徴を列記し、観察から読み取れるマグマプロセスを調べました。その後、翌日の発表に向けて3日間で行った課題の内容を班ごとにまとめる作業を行いました。
3月13日に、森田雅明助教(東京大学)による「火山ガス組成の測定」に関する講義が行われ、火山ガスの組成の特徴や採取・測定方法、MultiGAS(マルチガス)の原理についての解説がありました。また、標準ガスを用いたMultiGASの校正方法を学び、実践しました。午後には、田中良助教(北海道大学)によるドローンの操縦方法と安全管理に関する講義ののち、エコミュージアムセンターの隣で、田中良助教、寺田暁彦准教授(東工大)の指導のもと、ドローンの操縦を練習しました。その後、立ち入り規制区域となっている硫黄山の噴気ガスの測定を小型のMultiGASを装着したドローンで実施しました。
翌々日の3月15日は、寺田准教授からドローンの安全運航および最新の動向について、森俊哉准教授(東京大学)から紫外分光計を用いた二酸化硫黄放出率の測定方法について、それぞれ講義を受けました。その後、硫黄山近くの道路上で実際に二酸化硫黄放出率のトラバース測定を行ったほか、各受講生がドローン飛行訓練を行いました。また、ドローンMultiGASによる硫黄山の繰り返し火山ガス測定を行いました。
3月16日は、前日までに取得したデータを解析しました。2班に分かれて、ドローンを用いたMultiGAS観測で取得された火山噴煙中のガス成分濃度データから、火山ガスの各成分の濃度比を推定する解析を行いました。また、トラバース測定のデータから二酸化硫黄放出率を推定しました。それらの結果をもとに、硫黄山の噴気活動について考察しました。
最終日の3月17日に、受講生は、各班2つのグループに分かれて、それぞれの実習内容と解析・分析結果を発表しました。それぞれの発表について、活発な質疑応答が交わされました。最後に教員から、発表内容に対する評価や今後に向けた助言などを受講生たちへ伝えました。