火山研究人材育成コンソーシアム構築事業

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インタビュー&レポート

草津白根山でフィールド実習を実施しました
(令和4年9月6日~11日)


インタビュー&レポート

1.概要

地球物理学、地質・岩石学、地球化学の3分野における火山活動の計測・調査技術や解析手法を活火山の現場で学んでもらうため、9月6日に集合し、9月7日から11日までの5日間、群馬県に位置する草津白根山においてフィールド実習を行いました。本コンソーシアムに参画する全国の大学に所属する大学院生24名と教員13名が参加しました。また、講師としてNTTコミュニケーションズから2名、特別聴講生として九州電力から2名にご参加いただきました。1日目は草津白根山に関する講義と巡検を全体で行いました。2日目以降は地球物理、地質・岩石、地球化学の3班に学生8名ずつを分けて実習を行い、5日目に全体で発表会を行いました。

実習は期間前後10日を含む検温・体調報告や移動時に用いるバス・車の乗車率制限など、新型コロナウイルス対策を行ったうえで実施しました。

2.全班共通活動

● 9月7日

初日は3つの講義を行ったのち、大型バスで草津白根山周辺での巡検に出発しました。

【講義1】「草津白根山の地質と形成史」

石崎泰男教授(富山大学)が、地質学的・岩石学的観点から草津白根山の地形や形成史の紹介を行いました。地形や地質図、岩石から読み取ることのできる、火山体形成から火砕流発生、溶岩流流出火砕丘群の形成といった活動履歴について講義がありました。また、2018年本白根山噴火やそれに関連する火口についても堆積物に基づく噴火推移や活動年代についての解説がありました。

【講義2】「草津白根山の火山活動」

寺田暁彦准教授(東京工業大学)が、草津白根山の火山活動の概要や構造について紹介しました。ドローン映像や観測所の紹介、そこで行っている地球物理的・地球化学的観測とそれに基づく研究結果を交えながら、白根火砕丘の地下浅部に存在する透水性の低い構造や深部の流体放出に関わる構造、本白根火砕丘における2018年噴火に関する解説がありました。

【講義3】「NTTコミュニケーションズの火山観測に関する取り組み」

火山研究人材育成コンソーシアム参画機関の1つであるNTTコミュニケーションズ株式会社より、火山観測に関する取り組みについての紹介がありました。気象庁での火山監視に用いられているシステムの概要や草津白根山における発電・通信システム更改、点検時の安全対策のほか、最近行われている水中ドローンを用いた火口湖底水採取の実証実験についての解説がありました。


草津白根山周辺巡検

講義の後、大型バスで草津白根山周辺の巡検に出発しました。あいにくの天気ではあるものの降雨はないことから、雨天時のものとして予定していたルートを一部変更して巡検を行いました。まず白根レストハウス付近で弓池周辺を散策しつつ、水蒸気噴火堆積物や水冷火山弾の観察を行いました。次に万座しぜん情報館や空噴を訪ね、地層から読み取る噴火の歴史や観測点に関する解説を受け、基盤岩などの観察を行いました。その後鎌原観音堂に移動し、浅間山の天明噴火や特徴的な構造をもつ噴出物についての説明がありました。最後に草津町内の温泉基地を訪問し、火山活動により湧き出る温泉が観光や住民の生活に活用されるまでの仕組みについて学びました。


3.各班の実習(9月8日~9月10日)

● 地球物理班

1日目はまず、東京工業大学神田准教授から、火山体構造を電磁気学的に調べる地磁気地電流法(MT法)の原理や観測方法の概要、機器の設置方法について講義を受けました。その後、草津白根東麓にある谷沢原火砕流地点に観測に出かけました。機材を背負子で担ぎ、道路から1 kmほど入った地点に機器を運び、数十メートル四方の平地に東西南北方向に4個の電極と東西南北および鉛直方向に3台の磁気コイルを埋設しました。各センサーの信号ケーブルをデータロガーに接続し、観測を開始しました。午後には、静可山の地点の本白根溶岩の上に、同じようにMT観測装置を設置しました。

2日目には、午前中に、MT法の理論について、神田准教授から詳しく解説を受けました。その後、昨日設置した2点のデータ回収を行い、午後には実際のデータにMT法を適用して地下浅部の比抵抗分布を推定しました。3日目には、火山体を構成する多様な火砕堆積物や熱水により大きく変化する地下の構造と比抵抗との関係の講義を受けました。また、2点のデータ回収と機器の撤収を行いました。2日間のデータを吟味し、鉛直方向のみに比抵抗が変化する1次元モデルを仮定して、得られたデータを説明できる地下の比抵抗分布を推定しました。


● 地質・岩石班

1日目は、まず齋藤武士准教授(信州大学)・石崎泰男教授(富山大学)による火山地質概論の講義、伴雅雄教授(山形大学)による火山地形の講義がありました。その後、浅間山の観測所に移動し敷地内にある露頭を、解説を聞きながら観察しました。午後は、鬼押し出し園で、浅間山大噴火(1783年)によって形成された溶岩や、マグマのしぶきによってできたアグルチネートなどを観察しました。さらに、吾妻火砕流堆積物や追分火砕流堆積物、鎌原岩屑なだれ堆積物の巨大な岩塊を観察し、噴火の推移や岩塊ができた経緯などを各自考 察しました。

2日目は草津白根山の調査を行いました。午前中に、青葉山にて最近5000年間で出来たテフラ層の説明を受け、柱状図(地質断面図)を作成するとともに、サンプルを採取しました。移動後、殺生溶岩の溶岩堤防、溶岩じわ、噴気帯を観察しました。 午後はホテルに戻り、伴教授、井村匠助教(山形大学)の指導のもと、採取してきたサンプルを洗浄しました。

3日目は午前中に大場司教授(秋田大学)の水蒸気噴火噴出物に関する講義がありました。その後、東京工業大学草津白根火山観測所に移動し、井村助教から分析機器(X-Ray Diffraction)の使用法に関する解説がありました。午後は、顕微鏡を用いて、採取してきたサンプルの観察・解析を行い、2つのグループに分かれ、議論を交わし最終日の発表準備を行いました。


● 地球化学班

1日目は野上健治教授(東京工業大学)および森俊哉准教授(東京大学)のもと、温泉水測定の実習を行いました。午前中はまず温泉水や火山ガスの成分や測定に関する講義を受け、その後草津温泉街や西の河原で温泉水のサンプル採取や温度測定を実施しました。午後は東京工業大学草津白根山観測所に移動し、サンプルの希釈など分析準備を行ったのち、プラズマ発光分光分析やイオンクロマトグラフィーによって標準資料や温泉水に含まれる陽イオン、陰イオンの測定を行いました。

2日目はまず噴気ガスの化学組成の測定に使用するMultiGAS測定法について講義を受け、殺生河原にて2班に分かれ、一方は森准教授とともに噴気ガスの採取を行い、もう一方は野上教授から草津白根山の活動や地形、地下構造についての解説を受けました。その後天候不順のため観測所に移動し、温泉水のpH測定とMultiGAS測定の校正などを行いました。その後宿泊所にて、標準液測定の結果を用いた検量線作成と温泉水中イオンの測定結果の分析を行いました。

3日目は前日行うことのできなかった噴気ガス採取や草津白根山、本白根山の解説を受けたのち、宿泊所にてpH計の仕組みやMultiGAS測定結果の分析方法について説明がありました。MultiGAS測定ではセンサーごとに応答時間が異なることなどを考慮して分析を行いました。その後温泉水と噴気ガスの分析結果から採取場所による違いについて考察するなど、翌日の発表に向けた準備を行いました。


4.発表会・講評(9月11日)

最終日の9月11日は野上教授による本白根山噴火についての解説を受けたのち、実習内容をまとめた発表会を行いました。地質・岩石コース2班、地球化学コース2班、地球物理コース2班のグループに分かれて実習の成果を口頭で発表しました。教員・学生の双方から多数質問が出るなど、活発な議論が行われました。最後に教員による講評が行われました。