火山学に関する地球物理学や地質・岩石学、地球化学分野の計測・調査技術を活火山の現場で学んでもらうため、令和3年3月7日から12日までの6日間、鹿児島・宮崎県境に位置する霧島山においてフィールド実習を行いました。本コンソーシアムに参画する全国9の大学から、地球物理学、地質・岩石学を専攻する大学院生24名と教員14名が参加しました。 今回の実習は、実習前後2週間において参加者の検温報告、巡検や調査時のバス・車による移動では乗車率を制限、一人一部屋での宿泊など、十分な新型コロナウィルス感染対策を行ったうえで実施しました。
実習中の宿泊地であるアクティブリゾーツ霧島に夕方到着して、西村太志教授(東北大学)による実習開始の挨拶とガイダンスを行った後、初日は1つの講義を実施しました。
宮本毅助教(東北大学)が、霧島山の全体像を紹介しました。南部九州における霧島火山の位置づけ、霧島火山の形成史、霧島火山を構成する火山の種類、最近1万年間の活動についての解説がありました。また、翌日の韓国岳巡検に関するガイダンスも行い、登山ルートや観察ポイントについての解説がありました。
最近の霧島における火山活動に関する2つの講義を行った後、巡検を実施しました。
小園誠史准教授(東北大学)が霧島山新燃岳の火山活動に関する講義を行いました。2011年及び2018年に噴火した新燃岳で多様な噴火様式が出現し、それが多項目の観測によって捉えられたことを説明しました。また、地殻変動、衛星画像、気象レーダの観測データに基づき噴火のダイナミクスを調べる研究について解説しました。
松島健准教授(九州大学)から硫黄山の火山活動について詳しい紹介が行われました。硫黄山におけるごく最近の状況も含めた活動の推移、硫黄山の噴火警戒レベルの詳細と、レベル設定にまつわる課題についての解説がありました。また、精密水準測量などに基づく硫黄山直下の圧力源についての観測・分析結果についても解説が行われました。
霧島山の最高峰である韓国岳(標高1,700m)および活発な活動を続けている硫黄山で巡検を行いました。まず、えびの高原から、霧島の多様な火山地形を観察しながら韓国岳の山頂をめざしました。全員無事に登頂し、2018年3月に噴火した新燃岳との火口に蓄積された溶岩、御鉢、大浪池などを観察しました。その後下山し、規制区域への入域申請を事前に行った上で硫黄山の噴気地域を観察し、火山ガスの観測の様子も見学させてもらいました。天気に恵まれ、予定通りの充実した巡検を行うことができました。
3月9日に、山本圭吾助教(京都大学)による、測地観測のひとつである水準測量についての講義がありました。水準儀と標尺とを用いて2地点間の高低差を高精度で求める水準測量の原理と方法、本実習で行う一等水準測量に求められる精度、GNSSや干渉SARなどの他の地盤変動観測との比較、などの解説がありました。その後、精度を高めるための測量機器の使用法や測量手順の説明を受けました。 講義の後、ホテルの外で、山本助教と松島准教授の指導のもと、水準儀と標尺の使い方を習得しました。また、検定方法を学びました。
3月10日は、えびの高原に移動して、硫黄山から西にのびる道路で4名ずつの2班に分かれて終日水準測量を行いました。水準儀を操作する測量係、標尺係を順番に交代しながら、約1.5kmにわたり6水準点の測量をしました。1回の失敗により水準点間のデータがすべて無駄になるため慎重な手順確認が必要ですが、時間とともに迅速に測量できるようになり、無事に予定通り観測を終了することができました。
3月11日は、まず中尾教授がGNSSによる地盤変動観測についての解説を行いました。ホテル外に設置していたGNSS観測機器を見学し、観測点設置の方法や注意点、データの取得方法などについての解説がありました。その後、西村教授が地盤変動の高精度な観測に使用される傾斜計について、同じくホテル外で測器をもとに解説を行いました。
その後、松島准教授から水準データの解析方法の指導を受けました。過去の水準データとの比較から山体変形を求め、地下の火山性圧力源の位置と体積変化量を推定する方法を学びました。九州大学のグループが2017年10月から実施している硫黄山での水準データを提供していただき、今回、受講生が測定した水準データとの比較から山体変形量を求めました。さらに、2018年4月の硫黄山の噴火を含む2年半の山体変形を及ぼした火山性圧力源の位置と体積増加量を明らかにしました。
3月9日は、まず中川光弘教授(北海道大学)が「火山地質概論」の講義を実施し、噴火タイプと分類、噴火堆積物の種類と判別、地層から噴火の様式や履歴などの情報を読み取ることで、過去の火山現象を復元できることを概説しました。
その後、御鉢の東麓にある御池周辺でテフラ露頭を観察し、噴火様式の違いを反映した岩相の違い、本質物と類・異質岩片の識別、噴火のない時期を示す土壌の識別などによって、堆積物から噴火の推移や様式を推定する方法を学びました。そして、柱状図を作成する課題に取り組みました。さらに別の露頭では、約7,300年前の鬼界カルデラの大噴火によってもたらされたオレンジ色のテフラ(アカホヤ)、霧島の噴火によるテフラや溶岩流など、多様な堆積物を観察し、ルートマップの作成に取り組みました。
3月10日は、新燃岳の南西部に位置する新湯周辺で火砕流堆積物の構造と分布の特徴などを観察しました。多数のフローユニットからなる火砕流および火砕サージの堆積物について、堆積構造や本質物と類・異質岩片の識別などに着目しなから、噴火履歴を構築する課題に取り組みました。午後はホテルに戻り、伴雅雄教授(山形大学)による「火山地形概論」の講義を受け、火山の地形を見ることで、噴出物の種類や火山形成史の大まかな推定が可能であることを学びました。そして、韓国岳~不動池付近の赤色立体図を基にした、地形分類図の作成に取り組みました。
3月11日は、金子克哉教授(神戸大学)による「火山岩岩石学概論」の講義と、顕微鏡を用いた実習を行いました。前日までに調査した露頭などで採取される噴火堆積物の観察から、どのような情報を読み取ることができるかを解説しました。講義に引き続き、実体顕微鏡による噴出物の観察方法を学びました。実際に顕微鏡で火山灰を観察しながら、含まれる構成物の種類や特徴を列記し、観察から読み取れるマグマプロセスを調べました。その後、翌日の発表に向けて3日間で行った課題の内容を班ごとにまとめる作業を行いました。
3月9日に、えびのエコミュージアムセンター(えびの高原)において、森俊哉准教授(東京大学)による「火山ガス組成の測定」に関する講義が行われ、火山ガスの組成の特徴や採取・測定方法についての解説がありました。続いて、野上健治教授(東京工業大学)による「火山灰付着成分の分析」に関する講義が行われ火山灰分析の特徴や課題についての解説がありました。また、寺田曉彦講師(東京工業大学)より地熱地域における観測の安全講習がありました。
午後からは、野上教授の指導のもと、硫黄山・えびの高原において温泉水の採取を行いました。また、4名ずつの2班に分かれて、1班はエコミュージアムセンターの隣で、寺田講師、田中良助教(北海道大学)の指導のもと、ドローンによる硫黄山の火山ガス観測を開始しました。操縦講習を行った後、小型のMultiGASを装着したドローンで、立ち入り規制区域となっている硫黄山の噴気ガスまで到達し、測定を行いました。残りの1班はホテルに戻り、簡易型の吸光度計を用いて、採取した温泉水や、2011年の新燃岳噴火で採取された火山灰付着物の化学成分を測定する実習を行いました。
3月10日は、前日の2班の作業を入れ替える形で、ドローンによる観測および吸光度計による化学成分測定を行いました。ドローン観測は天候に左右されてしまいますが、3月9日、10日ともに天気に恵まれ、受講生の操縦によって無事測定に成功しました。
3月11日は、前日までに取得したデータを基に、解析を実施しました。2班でテーマを分担し、ドローンによるMultiGas観測で取得されたデータを基に火山ガスの化学成分の組成比を推定する解析、吸光度計により採取地点ごとに異なる温泉水の化学成分や、噴火時系列毎に異なる火山灰付着成分を推定する解析に取り組みました。それらの結果を、翌日の発表に向けてまとめる作業を行いました。
最終日の3月12日は、実習内容をまとめた発表会を行いました。受講生たちは、6つのグループに分かれてそれぞれ発表し、また、活発な質疑応答が変わされました。最後に教員たちによる講評を行い、発表内容に対する評価と今後に向けた助言などを受講生たちへ伝えました。